音楽を通して時代を揺さぶるような作品を生み出してきた、岩井俊二監督の最新作が完成。
劇中歌を自ら作り圧倒的な歌声を聴かせるアイナ・ジ・エンドさんと、謎の女性を演じる広瀬すずさんのふたりに、ベールに包まれた作品の中身を少し明かしていただきました！

『キリエのうた』
【監督】岩井俊二
【出演】アイナ・ジ・エンド、松村北斗、黒木華／広瀬すず
10／13より、全国にて公開
©2023 Kyrie Film Band

歌うことでしか“声”が出せない路上ミュージシャンのキリエ（アイナ・ジ・エンド）、そのマネージャーを買って出た謎の女性イッコ（広瀬すず）、フィアンセを探し続ける夏彦（松村北斗）、傷ついた人々に寄り添う教師フミ（黒木 華）。出会いと別れを繰り返していく４人の男女の、13年の壮大な魂の救済の物語。

お互いがそばにいたから自然と役になりきれた

初共演となる、アイナ・ジ・エンドさんと広瀬すずさん。初対面は冬の北海道でのロケ。打ち解けるのは早かったのだそう。

アイナ・ジ・エンド（以下アイナ）
私のほうが1日遅く北海道入りしたんですが、その日の夜にお会いしたんです。画面で観ることしかなかった方なので、最初は緊張したんですが、会ってみると天真爛漫で。『好きな食べ物は何ですか？』と聞いてくれました。『タン塩と白いご飯とスイカと焼き鳥と……』と迷いながら答えていたら、すずちゃんが『私はラーメンです！』と潔く１択できっぱりと（笑）

広瀬
それ覚えてない（笑）。アイナちゃんの歌は以前から好きで聴いていたので、『私にはない感性を持っているんだろうな』と思っていました。最初の撮影で雪の中でふたりきりで放置されたのも、打ち解けるきっかけになったかもしれないです。私たちは雪の中にいて、それをずっと遠くから撮影していて、私だけがアイナちゃんの素晴らしい歌声を間近で聴けるという贅沢な状態で。『この歌声がこの作品を引っ張っていくんだろうなと』と感じました。アイナちゃんの歌声がなくてはこの作品は成り立たなかったと思います。

アイナさん演じるキリエは路上で歌っているとき、広瀬さん演じるイッコと出会う。

アイナ
キリエは小学生の頃、あることがきっかけで日常で声を発することが難しくなったけれど、歌だけは歌えるという女性。私も4歳からダンスをやっていたので、会話よりダンスでコミニケーションを取るのほうが楽しかったんです。〝歌を歌っているときは自分の存在価値があがる〞という、キリエの思いにも共感できました。

広瀬
キリエとイッコも、言葉でつながっているふたりではないと思っています。いろんなことを経験して希望や目的などを感じなくなっていたイッコは、キリエの歌声を聴くことで〝生きている〞ことが実感できたのかなって。

アイナさんは、この作品の劇中歌も担当。自身としてではなく、キリエとして曲を書き上げたのだと言う。

アイナ
主題歌は小林武史さんが書いてくださったんですが、他は私が書かせていただきました。キリエは小学生からあまり声を発していないので、『シンプルな表現しか知らないのかな』と思ったんです。アイナ・ジ・エンドだったら違う表現をするけど、キリエとしてはわかりやすい言葉を使って映画を観てくださった方にダイレクトに刺さるように、難しいことを歌わないようにしたんです。『虹色クジラ』という曲はイッコさんにあてて書いたものです。

 

“虹色”という言葉に象徴されるように、謎の女性イッコはファッションやヘアスタイルをカラフルに変えて登場する。

広瀬
衣装合わせに行ったら信じられないくらいの数のウイッグと一緒に衣装も用意してあって。撮影で使ったウイッグは９個かな。普段着ることのないようなチェーンがついたジャージなどが着られて、楽しかったですね（笑）

 

ひろせすず
1998年6月19日生まれ、静岡県出身。
2013年俳優デビュー。
映画『ちはやふる』（2016～18年）、NHK連続テレビ小説『なつぞら』（2019年）、『水は海に向かって流れる』（2023年）などの多くの作品で主演を務める。公開待機作として主演映画『片思い世界』が控えている。

あいな・じ・えんど
大阪府出身。
2015年“楽器を持たないパンクバンド“「BiSH」のメンバーとして始動。
2023年6月解散後は、ソロアーティストとして活動。初主演映画『キリエのうた』では、劇中歌6曲を制作し、劇中では圧巻のパフォーマンスを披露。

※本記事はアッププラス2023年11月号より一部抜粋して掲載しています

取材・文／山西裕美（ヒストリアル）
撮影／屋山和樹
スタイリング／菅沼 愛（TRON）＜アイナ・ジ・エンドさん＞、丸山 晃＜広瀬すずさん＞
ヘア＆メイク／KATO（TRON）＜アイナ・ジ・エンドさん＞、奥平正芳＜広瀬すずさん＞